今、手に取っていただいた「日米ニュース」に掲載されているお悔やみ記事、日本文化を広めるために長年尽力してきた日系文化人などにスポットライトを当てた記事などにはある共通点があります。必ずと言っていいほど、第二次世界大戦中に日系アメリカ人12万人が対象とされた強制収容の経験が語られているのです。時は1800年代後半、農業を中心とした労働者階級の日本人から始まった移民。その強制収容は、言語や文化の違いはもちろん、差別や偏見に我慢強さと努力で生き抜き「日系アメリカ人」としてアメリカ社会に確固たる地位を築き上げた彼らのほぼ全てを破壊する出来事でした。
戦後、収容所から戻った日系アメリカ人たちのほとんどがゼロからのスタートを余儀なくされ、そんな状況下でも彼らは必死に働き、家族と日系社会を支え続け独自の日系文化を形成していきます。今号に掲載されている短大の学長になったササキさんは日系5世。ブッシュ政権下で閣僚にまで上り詰めた故ノーマン・ミネタ氏など、日系アメリカ人が政界、ビジネス界やスポーツ界で活躍するもの珍しくなくなりました。
そして近年、戦後豊かになった日本から日本企業の駐在員、起業家、留学生、スポーツ選手らが米国に入るようになります。そんな我々は「日系新1世」と呼ばれることもしばしばです。しかし、我々日系新1世は、どれだけ日系アメリカ人を理解しているのでしょうか。興味はあっても日系アメリカ人と知り合う機会やその歴史を知る機会に恵まれないことが多いと思われます。
この「日米ニュース」を発行する日米ファウンデーションは、隔週発行の同紙を通して日系アメリカ人ニュースを届ける他、強制収容など日系アメリカ人にとって重要な歴史を描いた作品を上映する映画祭(2月)、日系史を回顧して次世代へとつなぐイベントなどを開催しています。ですので、この日米ニュースが日本語で書かれ皆様の手に渡ることには意義があるのです。
日系史にまつわる巡礼のイベントが来たる10月7日(土)に開催されます。江戸時代末期の1869年、戊辰戦争の最中に会津藩から太平洋を越えてサクラメント近郊のプラサービルに渡った先駆者たちの築いた「若松コロニー」を巡礼するツアーです。当地は史跡として保護されているほか、アメリカの地で亡くなった最初の日本人として知られるおけいさんを埋葬した「おけいの墓」があります。日系アメリカ人への視野を広げることができる絶好の機会です。
日米ニュースの前身「日米タイムズ」は日英バイリンガルの新聞として100年以上の歴史に2009年幕を閉じました。そして今年、カリフォルニア州政府とサンフランシスコ日本町財団からヘイトクライムへの注意喚起記事を日本語で掲載することを一つの条件として1年分の基金をいただきました。アジア人を標的としたヘイトクライム情報をはじめ、日系アメリカ人社会と日本人社会のつながりを後押しできるよう努力して参ります。どうぞ、ご協力お願い申し上げます。(森川広太)
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